「神保町奇譚」 (著・池井戸潤)
アマゾンの有料会員になった特典でこの電子書籍は無料。
花咲舞が活躍する短編もの、「下町ロケット」や「半沢直樹」ほどのエンターテーメント性はなかったが、ひと時を埋める読書となった。
舞は仕事を終え、神保町で同僚の相馬とビールを頼む、先輩から紹介された一見さんお断りのその店はちょっと美味い肴を提供する。
隣あわせた上品な婦人の話が短編の本題に引き込む。娘さんが亡くなって銀行通帳を整理したら亡くなる直近に3000万円のお金が入出金されていたのだ。
銀行勤めの舞は相馬と早速調査する。娘さんが務めていたベンチャー企業は既に倒産していた。
半沢直樹は権力に立ち向かうがこの短編は世間でもありそうなことを軽く扱う。
企業のほとんどは銀行融資によって成り立っている。
晴れた日に傘を貸し、雨の日に返せと比喩されるほどに銀行の振舞いは非情な面もある。
それでも今は安倍政権による金融緩和策によって金余り状態が続いている。
企業を成長させるには資金がいる、金融は資本主義の要だが、GDPの何倍ものお金が世界中を巡っている現状を見れば新自由主義経済の先が雲の中にあることは否定できない。
企業オーナーにとって計画倒産まではいかなくても借入金を個人資産に組み込むことはそれほど難しくはない。もちろん業績がそれを埋めれば問題はないが資金を個人に蓄えて企業は自転車操業でなんとかやりくりしているという企業もある。
この本はベンチャー企業が別途に蓄えた資金で蘇る是非を問うことなく、難病に取り組むベンチャー企業姿勢を応援するような内容になっている。
非上場の企業オーナーの中には韓国財閥のナッツ姫を彷彿させるブラックな人がいる。日本の非上場のオーナーは独裁者の権限を持つとかつて日経新聞が連載した。
残念ながらそのパワハラを諫める手段は今もあまりない。
「企業は人なり」とは言い古されてはいるが著者はそんな基本的なテーマを短編に仕上げたのかもしれない。