ソング・ライン(著・ブルース、チャトウィン)。
著者はオークション会社サザビーを辞めて、考古学を学び、旅行記作家として、ノマド(遊牧民)を追う人になった。
彼のテーマは「What am I doing here」 (どうして僕はこんな所にいるんだろう)だ。
この本は旅行記を超えた哲学書でもある。
アボリジニの歌=ソングは彼らがこの地に今あることの証明で先祖からつながる遊牧の土地を伝承している。オーストラリアの山や川、岩やそこに住む動物の全てが名付けられ、大地のそれぞれのゾーンが先祖伝来の地になっている。
遊牧民であるアボリジニは土地を持たないとしたのは後から入ってきて
国を盗んでしまった白人達だ。
アボリジニは居留地に閉じ込められ遊牧の民ではなくなったがその歌は忘れられず今も続く。チャトウィンはアボリジニと共に
旅をして歌を聞く。鉱物資源採取や道路、鉄道建設のためにソングラインは切断され分断される。エミューやカンガルーやワラビーやトカゲが自由に走り回り、ユーカリの緑と白の葉の表裏がどこまでもなびく大地がそこにはある。
アボリジニは全てを受け入れ自然を愛する平和主義者達だ。アボリジニは祖国から追い出された白人達にそれほどの抵抗もせず従った。
ノマドこそ人間らしく生きる姿だと世界を旅する著者は浮動の道を書き記す。
あらゆる紛争が領土問題である現実にこの本は一石を投じている事は確かだ。
旅行中彼の手元にあったのは松尾芭蕉の「奥の細道」だという。
日本人の心にもノマドは宿る。
「ソングライン」は分厚い本だが読み終わるのが惜しいゆったりとした気分になれる王道を行く本だった。