「動物たちの箱舟」(著・コリンタッジ)は動物園の目的のひとつである動物保護の領域を哲学・遺伝学。動物学等の学際的見地から書かれた本だ。
動物園活動を志す者が自分のスタンスをしっかり持つために論理的な道筋をつけてくれる本だと思った。
著者の主張は多くの動物が絶滅の危機を迎えているのは何万種という生物の中のただ1種
である人間が引き起こしているもので、保護し繁殖させ絶滅から救うのは
人間でしかないというもの。
そのために世界の動物園が機能して問題となっている2000種の動物を救うのだと説く。
専門的研究から著者は個体として生き延びるためには500個体が必要で種毎に最低必要個体を算出している。
ボクが活動する多摩動物公園には
モウコノウマがいる。
19世紀後半まではモンゴル草原にいた現存する唯一の野生馬だ。(モンゴルの人達が乗って狩りをするのは家畜であるモウコウマでこのモウコノウマとは違う。染色体が違うから交雑しても子孫は残せない。)
モウコノウマは気がついたら野生の馬は絶滅してしまっていた。
残っていた馬がヨーロッパに13頭飼われていた。
動物園で繁殖させてモンゴルの平原に戻す計画を実行し紆余曲折があって、
群れとして1990年代にモンゴル高原に放たれた。
これは成功例だが、動物園育ちの動物の野生復帰はなかなか進まないのが実情だ。近親交配による生存率の低下や野生復帰しても動物園育ちの動物が獲物をとれなかったり、簡単に捕食されたりする。そして戻す
自然が既にない悲しい現実もある。
著者は
何百年という単位の計画で野生に戻す目的を様々な障害を乗り越え実現しようと課題対応策を明示して提案している。
人間がなぜ動物を助けなければならないのか。それは「生物多様性の保全」が人間の持続可能な世界をつくるという論理がある。著者はその事を肯定しながらそれは
「功利的な考えだ」という。
動物を救いたいという直感、神は
ノアの箱舟を作ってこの世界を守った。
「動物たちの箱舟」と題したのは動物を救うのは神の意思だと著者は訴えたのだと思う。
多様性を認める事それは「功利的だから」ではない。
人が生きていく中で直感として備わっている本質的なものだとまた動物たちに教えられた。