葉室麟の文章は穏やかでしっとりとした味わいを持つ。
優しい心を持った主人公を登場させるから尚更だ。
この本「恋しぐれ」の主人公は与謝野蕪村。晩年の芸奴との恋を背景に取り巻く人達の様々な愛の物語を人の心に宿る優しさで描いていく。
心のまま生きて行く事の直さと現実という真の姿の狭間を蕪村の俳句が埋めていく。
蕪村の友人である丸山応挙の想いがこの小説の価値を高める。
応挙は物そのものを描いてそれまでとは違った
画風を確立した。
想いを寄せる女性を手元に置きたいと願う気持ちが誠の気持ちなのか?それとも邪心なのか?
結論を出さず無理をせず流れに任せその愛を成就させる事はなかった。
蕪村は心を絶とうとするが諦める事ができない。
富豪の弟子が身請けして囲うことになる。だが老いが迫り病床に伏せる。
芸奴も心を寄せているから物語が悲しくなる。
「白梅にあくる夜ばかりとなりにけり」。蕪村の辞世の句だ。
白梅の咲く中に蕪村と芸奴が友にいるのだろう、
そんなエピローグがイメージされる風景画のような小説だ。