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イギリスのオープンガーデンを訪れたビジネスマン縣に「日本人に読んで欲しい」と書かれた古いノートが渡された。そこにはかつてこの庭を造った人の、日本での秘めた恋が書かれていた。
梶村啓二著・「野いばら」は幕末の生麦事件直後に日本に送られた情報部員エヴァンスと美しい女性ユキとの短いひとときを描いた小説だ。
エヴァンスは日本語教師を雇う、それがユキだった。
ユキが紹介する日本文化の飾らない質実でシンプルな美意識にエヴァンスは感銘をうける。
特に日本人の花への接し方に驚く。
イギリスでは上流階級の限られた人しか花を愛でることはない。
日本では一般庶民でも四季折々に咲く花が生活の中に溶け込んでいる。
「野いばら」を一枝手折って、とげと枝ぶりを手元で裁定し机の花としたユキの見事な振る舞いはエヴァンスの心を虜にし、エヴァンスの美に対する意識の高さにユキも惹かれていく。
エヴァンスは覚えたての日本語で感情を表すがユキは「同じおもいでござります」としか言わない。
薩摩・長州との戦いで圧倒的強さを見せたイギリス艦隊は江戸にその砲弾を向ける。
ユキは攘夷派が送りこんだ暗殺者かもしれない!
ユキは追っ手からエヴァンスを逃がす。
ユキが選んだ庭師から購入した日本の花々が残り、物語はあっけなく終わる。
ノートを返しにオープンガーデンに立ち寄った縣はその奥庭につながる丘に群生する野いばらをみつけ150年前のロマンに思いを馳せる。
「先生のお庭番(朝井まかて・著)」はシーボルトと園丁の物語だが、そこにも書かれていたのは自然を取り組んで独自の文化を築いた日本人の姿だった。
世界1美しい都市は江戸であり、識字率でも日本国が世界1だった。
開国をしなくても幸せな国だったがグローバル化の波は避けることはできない。
攘夷から開国に向けて一転した国論は近代国家の道をまっしぐらに進む。
脱亜入欧思想は開国時の不平等を取り戻すためでのものだがやがて侵略者になったことに間違いない。
自然を愛し花々の美しさに心なごませる同じ人間が何故刃を持つのか。
この問題は結ばれぬ恋の果ての結末と同じくらい虚しいものなのかもしれない。
by willfiji
| 2013-04-17 21:44
| 読書
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