「南朝研究の最前線」(編・呉座勇一)
「もうひとりの天皇」(著・小野寺直)
今上天皇の生前退位の問題が浮上してから、天皇について考える中、もう一度確かめたかったのは南北朝のこと。
今上天皇は北朝の流れをくむ、鎌倉幕府を滅ぼした後醍醐天皇は南朝の人、日本は南朝と北朝の天皇が交代で皇位を継いできた。
天皇は神様の子孫だと今では誰も信じないけれど、維新政府ができてから天皇は神格化され、あら人神のもとでは「カミカゼ」が吹くと無謀な戦争に突入した歴史がある。
本の一冊は研究者の書で客観的な史実に基づいたもので、もう一冊は南朝天皇の子孫という人の本だ。
その中で注目されるのは桂内閣によって南朝が正統な天皇であるとされて、明治天皇もそれを認めたというところだ。
今上天皇の生前退位について安倍政権は判断を有識者に委ねた。人選が偏っているのはこの政権の常とう手段、生前退位はこの天皇に限るという特別法で扱うように持っていった。
今上天皇の意向は皇室典範を変えて欲しいというものだったが、それは無視されたようだ。安倍首相の仲間は神道国家観を持つが今上天皇との親和性がない。それはオバマ元大統領ややメルケル首相が安倍首相と親和性に乏しいのと同じ理由による。いわゆる理想の欠如である。
今上天皇は日本が民主国家になるように育てられた、平和についての造けいが深い。ボクは天皇に対しては否定的だったが、今上天皇の行動を長年見る中で今上天皇を敬愛するようになった。
改憲をめざす安倍政権にとって、平和憲法を擁護する今上天皇は都合が悪いのだ。それはちょうど南朝を正統と認めながら立憲君主として北朝の天皇を政体天皇として祀り上げた明治政府の立場と同じだ。
南北朝の歴史を読むと政権と天皇の関係がよくわかる。今上天皇は権力に利用されないように穏やかだが強力に国民に訴えている。
天皇が訴えていることと政権が出した結論に相違があることを国民の多くが知ったと思う。天皇は決して神武から続く人ではないが日本の心をつないできた何かがある。
昭和天皇は誤った道を進んだが今上天皇はそうならない道を歩んでいる。南北朝の時代から天皇にも様々な人がいる。
盲目的に天皇を敬うのではなく敬うに足る人かどうかを主権者である国民が見極めていくことが大切だ。