「肉体の門」 (著・田村泰次郎)。日経新聞のコラムなければこの本を読む事はなかったと思う。著者自身の体験だから真実を知ることができると手にした。そこには衝撃の事実が書かれていた。
思想といった高貴な言葉ではなくても人がどう生きたかを知れば真実を感じる事ができる。
戦後の闇市で身を売って生きる大人になりきれない少女達と復員兵との話である。愛を知らずに体を売る少女が盗みを生業としている復員兵をかくまう。少女達に慕う気持ちが生まれるが失ったものは戻らない。
僕が生まれるほんの少し前はそんな世の中だったのだ。戦争は終わっても
消えないものがあった。
他に3編の小説がこの本に収められている。そこには従軍慰安婦のことが書かれている。
兵隊としてその場にいた作者が戦後すぐに書いたのだから
事実が書かれている と確信が持てる。
著者は戦前には純文学を志していた早稲田の学生だ。
中国戦地でのすざましい体験が肉体こそすべてだという作家に変貌させた。
彼は正論を述べない。
リアルに直に書くから性的なことがエロにならない。
軍の命令によって朝鮮人の女性が前線に送られる。4-5名の女性に何百人という兵隊が
列をなし一時の恐怖から逃れ欲望を満たす。女達は朝鮮人の売人が連れてきたとされる。
エリートである将校達は
日本人の娼婦と遊ぶ待遇があった が兵隊たちは中国人や朝鮮人の女性があてがわれた。酷い仕打ちを受けた女性達もいくばくかの金品を得ることでそんな生活に慣れていった。兵との恋も生まれた。
戦火は容赦なく拡大し中国革命軍の勢力が次第に増す。女達を連れて何百キロと過酷な夏の夜を行軍する兵士達の姿を描き出す。
従軍慰安婦の問題は強制的であったかどうかということよりもこんな戦争を絶対に起こしていけないということは明白で日本のために犠牲になった他国の人に対して
心に刻んでお詫びをすることは人間として当たり前のことだ。人身売買に歪曲化するのではなく、他国の人を人間として扱わなかったことを恥じる身を心から表さねばならないのだ。
前代未聞の法律を
姑息なやり方で通そうとしている。その姿は戦時中の将校と変わらない。