「幸福な朝食」は乃南アサのデビュー作。以前からこの作品を読まなければ始まらないと思っていた。直木賞を取った「凍える牙」とは違った作風があった。文を書き続けるうちに巧みになって論理的になったように思う。「幸福な朝食」は純文学的要素があって芥川賞へ向かってもおかしくない不思議さが漂っていた。
美貌に恵まれた少女志穂子は芸能界で活躍できると確信し地方から上京し俳優養成所へ通いその日を待つ。しかし何年たってもその日は来なかった。やがて人形師の道を見つけた志穂子はやっと親からの仕送りがなくても暮らせるようになった。30半ばになっていた。人形が主役で影のような存在である志穂子はその
美貌を仕事を取るために使った。
志穂子が夢見たスターの座には上京するほんの少し前に華々しくデビューした柳沢マリ子が座っていた。志穂子がそのスターと瓜二つだったことが2人の
明暗を分けたのだ。
サスペンスが始まる予感がして登場人物が次々に配置される。経済的な理由から一緒に住むことになった弓子は志穂子にとって初めての友達だった。その弓子が妊娠した。幸せそうな弓子だったが子を宿したまま命を失う。
男性に対する愛情も結婚する気もない志穂子だったが志穂子だけの子供を持ちたいと願い隠す事なく妊娠が皆に知れる。関係のあった2人の男性は
結婚を迫られるのではないかと疑心暗鬼になる。・・・・ミステリアスに物語が進む。狂気と思われる志穂子の描写が文学的だ。
乃南アサは美貌の功罪を女性なら誰しも持つプリンセス願望を計りにして、
あきらめ時の見極めで決まるとデビュー作で示したのだろう。
「いつまでも主役をやりたい人」に幸福な朝食は運ばれないと言いたかったのではないだろうか?